
2020年11月にApple シリコン M1チップを搭載したMacが発売されました。
このM1チップのMacでは今の所、Boot CampでもParallels DesktopでもWindowsを使うことができません。
M1チップとは
Apple シリコン M1チップとはアップル社が開発したSoCです。
SoC(System On a Chip)とはCPU(演算装置)、GPU(画像用演算装置)、メモリなど複数の機能が実装された半導体チップです。
このM1チップの大きな特徴は2点です。
- ARMアーキテクチャ
- ユニファイドメモリ
ARMアーキテクチャ
ARMとはCPUアーキテクチャ(構造)の1つです。
ここ15年ほど、パソコンのためのCPUアーキテクチャはインテル(AMDも含む)が主流でした。
MacもWindowsもです。
昔から消費電力に対する性能はインテルよりARMのほうが高いものの、以前のARMの性能はインテルには及びませんでした。
それがARMの性能向上によりインテルと変わらなくなってきたのです。
同じ性能ならインテルより消費電力の低いARMにすればいい、と誰もが考えますが簡単ではありません。
ARMに移行すると基本的にはインテル向けに開発されたソフトウエアが使えなくなるためです。
AdobeやマイクロソフトOfficeなどのメジャーなソフトはARMに対応したものの、冒頭に書いたようにWindowsは今の所、Boot CampでもParallels Desktopでも使えません。
にもかわからず、Macは全面的にARMアーキテクチャに移行しようとしています。
WindowsはMacより早く移行しようとしていました(詳細は後述)。
たとえソフトウエアの互換性の問題があってもARMへの移行はMacでもWindowsでも規定路線ということなのでしょう。
ユニファイドメモリ
M1チップのユニファイドメモリとは「バス」を介さずに共有されるメモリです(M1チップ以外ではGPU専用メモリを用意せずメインメモリをCPUとGPUで共有することをユニファイドメモリと呼ぶことがあります)。
バスとはCPUやGPUなどの「装置」が同時にメモリにアクセスしようとしても衝突がおきないように調停するための仕組みです。
バスによる調停とは例えば「今、CPUがアクセス中だからGPUはちょっと待ってね」みたいな単純に待ってもらうための仕組みで当然、調停すればするほど遅くなります。
パソコンを構成する複数の装置の中心にはこのバスがあり、装置間のデータの受け渡しを行っています。
特にパソコンでは画面描画のための膨大なデータがCPU、メモリ、GPU間をバスを介して転送されています。
バスによって調停されながらの膨大なデータ転送は当然、パフォーマンスの足を引っ張っていました。
M1チップではバスを介さずにメモリを共有するため、従来よりパフォーマンスが大幅に向上します(その代わり装置間で衝突しないようなメモリアクセスをする必要がありますが)。
WindowsはMacより早くARMに移行しようとしたが・・・
前述のようにWindowsはMacより早くARMへの移行にチャレンジしています。
そもそも以下のようなパソコン向け以外のWindowsには大昔からARM版がありました(ARM版どころかMIPS版とかもありました)。
- Windows Phone
- Windows Mobile
- Windows Embedded
- Windows CE
パソコン向けではないため通常のWindowsアプリをそのまま使うという要求はなく、アプリの互換性問題はありませんでした。
これらはすべて絶滅し、現在も生き残っているものはありません。
マイクロソフトが開発中のSurface Duo(2画面の折りたたみ式スマホ)ではWindows Phoneではなく、Googleが開発したAndroidを採用するというありさまです。。。
Windows RT
では、パソコン向けのARM版Windowsはというと、2012年にリリースされた「Windows RT」があります。
マイクロソフトのSurfaceの初代機はそのWindows RTを搭載したSurface RTです。パソコンメーカー各社もWindows RT端末を発売しました。
しかし、ARMアーキテクチャにもかかわらず、稼働時間はインテルアーキテクチャのWindowsパソコンと変わリませんでした。
しかも、使えるのはWindowsストアのARM版アプリのみで既存のWindowsアプリはまったく動かないという「ぶっ飛んだ仕様」でした。
さすがにパソコン向けのWindowsで既存のアプリが使えないというのは全く受け入れられず、Windows RTも絶滅の道をたどりました。
Surface Pro X
Surface Pro XとはARM版のWindows(Windows RTやCEのようなOS名はないようです)を搭載したパソコンです。
WOA(Windows On ARM)によって通常の(インテル向けの)WindowsアプリをARM用に変換しながら動作させることができます。
ただし現在、WOAで変換できるのは32bitアプリだけで64bitアプリ対応は現在開発中です。
ARMを採用したことで稼働時間も長く(M1 Macにはまったくかないませんが)、スマホのようなLTE常時接続も実現しています。
しかし、マイクロソフトのカスタムチップである「Microsoft SQ2」を搭載してはいるもののM1チップのユニファイドメモリのような仕組みはないようで、M1 Macのような大幅なパフォーマンス向上は実現していません。
そのため、「若干の稼働時間アップと常時LTE接続のためだけに(少なくとも今は)64bitアプリが使えないARM版のWindowsを選択する意味があるのか?」となってしまいます。
そんなわけでWindowsのARM移行は茨の道でした。とても成功したとは言えないでしょう。
それに対し、ARMのM1 Macはパフォーマンスと駆動時間だけでも選択する価値があるのではないでしょうか。
M1 MacでWindwosが使える可能性は?
今はダメでも将来的にM1 MacでWindowsが使える可能性はあると思いますが、今の所はその可能性にすらアップルは触れていません。
しかし、M1 MacでWindowsが動く可能性はあります。
- Windows Server VPS
- Cross Over
- Parallels Desktop + ARM版Windows
- Boot Camp + ARM版Windows
Windows Server VPS
Windows Server VPSとはクラウドでWindowsを提供するサービスです。
M1 Macから「Microsoft Remote Desktop」でWindows Server VPSに接続することでクラウドのWindowsがまるでMacで動いているように使えます。
つまり、正確には「M1 MacでWindwosが使える可能性」ではなく実際に使えます。
ただし、WindowsはM1 Mac上で動作するわけではなく、クラウド上で動作します。
Cross Over
Cross OverとはWindowsアプリに互換レイヤを提供するソフトです。
Parallels Desktopなどの仮想化ソフトと異なり、Windows OSを必要としませんが本物のWindows上でWindowsアプリを動かすわけではないため、動作するアプリは限られます。
ARMアーキテクチャ上で期待どおり動くのかという疑問もあります。
実際、ChromebookでWindowsアプリを動かす「CrossOver Chrome OS」は対象のChromebookをインテルCPU搭載のものに限定しています。
Parallels Desktop + ARM版Windows
Parallels DesktopとはMacでWindowsを動かすための仮想化ソフトです。
現在販売されているParallels Desktop 16はM1 Macでは動作しません。
しかし、Parallels社はARMベースのOSをサポートするParallels Desktopの開発を進めています。
このARM対応Parallels Deskopと前述のARM版のWindowsを組み合わせればM1 MacでWindowsが使えることになります。
しかし、ARM版のWindowsはインテル版のWindowsのように一般販売されていません。
PCメーカー向けにはOEMライセンスされていてARM版Windowsを搭載したパソコンが発売されています。
ARM版のWindowsがParallels社向けにOEMライセンスされるか、一般向けに販売されれば実現するのですが。。。
Boot Camp + ARM版Windows
MacにはBoot CampというMacにWindowsをインストールする仕組みがありました。
しかし、M1 MacではBoot Campを使えません。
今までのMacにWindowsがインストールできたのはインテルアーキテクチャのMacのハードウエアがWindows PCとまったく同じだったからです。
M1 Macはそうではありませんので、Boot Campが使えないのは当然です。
でももし前述のARM版Windowsが一般販売されれば・・・、という期待はあります。
M1 MacとARM版Windows PCでブートプロセスが同じなのか?、という疑問もありますが・・・。
macOSを使わないならSurface Laptop 3でも
MacBookを購入しても使うのはBoot CampのWindowsだけでmacOSは使わない、という人もいます。
昔はMacBookのような高品質のWindowsノートがあまりなかったせいもあるかもしれません。
でも今はSurface Laptop 3のような品質のWindowsノートがあリます。
Surface Laptop 3にはWindowsのライセンスはもちろん、Office Home and Business 2019も付属しています。まあ、WindowsもOfficeもSurfaceと同じマイクロソフトが開発していますから社内から安く調達出来るのでしょう。
macOSを使わないのであればMacのARMへの移行はそういった選択肢を考えるいい機会かもしれません。
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